「理想の上司」とは部下の思っている事をしっかり理解できている人です。今すでに部下がいる人は自分が理想の上司となっているか、これからマネジメントをしていく人は、どういう点に気を付けるべきかを知り、理想の上司をめざしましょう。
「社会人たるもの、上司の言うことは絶対」とは昔から良く言われたものです。どんなに「それ違うと思うけどな」と思っていても、どんなに理不尽だと思っても、言われたことが絶対という風土が残っている会社もあります。理不尽は、仕事をスムーズにしていく上で徐々に解消していかなければならないものであることは確かなのですが、それに積極的な人はあまり多く見かけません。むしろ「上司と部下」という立場の違いを前提にして、この理不尽を利用しようとする上司がいる場合も。この記事では、主に製造業で発生しやすい理不尽なことを、「理想の上司になるために気を付けるべき事5選〜製造職編〜」として、「部下からしたらこう見えてますよ」という視点で述べていきます。ぜひ参考にしてみてください。
製造業界において日常的に目にするのが「なぜなぜ攻撃」です。物事の本質(特にミスの発生原因や改善項目)を突き詰めるためには、「なぜ」を積み重ねていくことが大事という考え方で、製造業に携わる人なら誰でも聞いたことがあるでしょう。本質が見えてくるまで、最低「5なぜ」が必要と言います。5回なぜを繰り返し問いていくと、本質的な答えが見えてくるという意味ですね。これはうまく機能するシチュエーションにおいては非常に有効です。例えば工場内で誰かがケガをしたとしましょう。
以下・・・着実に良くなっていきそうな雰囲気ですね。これが何度も「なぜ?」を問う理由です。
もともとこの考えは、工場内の改善活動として始まったものなので、上記のような工場内の問題解決に対しては非常に力を発揮します。ところがこのなぜ?の積み重ねを場違いなところに利用する上司が結構います。これを「なぜなぜ攻撃上司」と言い、特に部下を攻めるために悪用するケースが見られます。例えば部下が寝坊したとしましょう。
これでは改善になるどころかパワハラレベルの詰問と言えるでしょう。睡眠具合は人によって違いますし、深刻に悩んでいる人もいるのですから。他に「太っている」など身体的特徴や、「根暗」など個人的な性格に向けられることもあります。いずれもなぜ?を積み重ねたところで答えが出ないことは明白です。本人の個別の性格・特徴だからです。上司にとって重要なのは、「なぜなぜ攻撃」は、部下に対して(特にプライベートのことや体に関すること)濫用しすぎてはならないということです。
「ダブルバインド」という言葉を聞いたことはありますか?ダブルは2重の、バインドは縛るという意味ですね。ダブルバインドとはYESと答えても、NOと答えても、結局は質問者側が有利になる状況を言い、先に紹介した「なぜなぜ攻撃」にも通じる部分があります。具体的に説明しますね。
例えばA君が「客先のメールを見落としたことで納期を守れなかった」という失敗をしたとしましょう。理不尽な上司はこう聞きます。「どうしてこんなミスが起きるんだ?事前にお客さんに確認したって言ってたよな?」こう上司から問われた場合、A君はYESかNOかで答えることになります。
「はい、確認したと考えていました。したつもりになっていたようです、申し訳ありません」
理不尽上司はこう答えます。「確認したと考えているならなぜこんなことになるんだ?原因を徹底的に洗い出して報告しなさい!」
・・・以下A君がどう答えようとも執拗ななぜなぜ攻撃が始まります。
「いいえ、その報告はしていませんでした・・・申し訳ありませんでした」
理不尽上司はこう答えます。「周りに伝えておけば誰かが遅れに気づけたはずだ。なぜ報告しなかった?」
・・・以下同様に執拗ななぜなぜ攻撃が始まります。
この場合、A君がミスしたことは明確です。とはいえ、A君の仕事をきちんと把握し、マネジメントできていなかった上司にも責任はあります。この場合、上司は、ミスが発生した原因を探り、次回同じミスが起きないようにケアをすることです。さらに言うならミスをしたA君のメンタル面に関しても気を遣わなければなりません。「ミスを憎んで人を憎まず」、仕組みを作ってミスを未然に防ぐ対策を練るのが上司の役目です。
上記のように、YESと答えた場合もNOと答えた場合も質問者が必ず有利になるダブルバインドは、頭の回転の早い上司がやりがちな方法です。交渉上手の上司は、先回りをした上で本人も無自覚にこのダブルバインドを持ち出すことがありますから要注意です。やられた部下側からすると、ミスをしたことよりダブルバインドで攻められたことに対するダメージを後々まで引きずることになりかねません。「YESとNO」どっちで考えても上司の手のひらの上で転がされるわけですから、苦痛としか言いようがありませんからね。
このようにならないために注目すべきは、「・・・・って言ったよな?」という上司の最初の問い方です。この問い方には2点問題があります。原理的にYESかNOかでしか答えられないという点が1つ、またYESで答えられてもNOで答えられても相手(この場合はA君)の言い分を簡単に言いくるめられてしまうという点がもう1つです。ですから、上司の質問の始め方として正しいのは、「まずは状況を説明してくれ」です。そこから一緒になって解決策を探していくと言うのが、A君の成長にとっても上司への信頼度アップにも貢献するのです。ダブルバインドを多用すると、理屈では正しくとも、部下からは理不尽だと思われてしまいます。さらに、「何をこの上司には何を話しても無駄だ」と思われた瞬間、部下のパフォーマンスが著しく低下することは容易に理解できるでしょう。とにかく厳しくすれば部下は成長するという考えは前時代的な考え方です。
上司やリーダーという存在は一貫性がないと務まりません。部下の立場としては、最終的な決定は上司が下すのだから、上司が納得するやり方で進めようと考えるのはごく自然なことです。
一度指示した内容を覆したり、質問に行く度に答える内容が変わったり、部下の考えを遮ってばかりでは、部下からすると理不尽だという機運が高まってしまいます。上司としても、さらにその上の上司からの指示があったりと、内容を変えなければいけない場面があることを部下は理解しています。その場合は変更があったことを部下に率直に伝えるべきです。もちろん初めから一貫してできれば良いですが、方向転換することは製造業に関わらずどんな現場にも起こり得ます。大事なのは方向転換をするに至った経緯を部下と共有し、きちんと説明した上で進めることです。一緒になって進めているという感覚を与えてあげればパフォーマンスは自然に上昇していきます。
製造業に限らず、お酒の入る飲みの場でのふるまいも注意です。「俺の若い頃はこうだった」「新設の営業所の売り上げを倍にしたのは俺だ」「よく売れるあの製品のアイデアを練ったのは俺だ」などなど。過去に自分がやって成果を上げてきたことであれば、自慢したくなる気持ちは誰にでも多かれ少なかれあるでしょう。しかし、部下からすると「俺の若い頃は」とか「昔は」とか「あの頃は」とか枕詞がついた瞬間に「またか」と身構え、聞く耳を失っています。興味を持って相づちを打っていると思って、訥々と話を続けるようなことがあれば、やはり理不尽だと思われてしまいます。今はワークライフバランスの時代、部下に限らず自分の時間を大事にしていこうという機運があります。これだけ娯楽や情報に溢れた現代において、飲み会に割くコスパと時間のロスを細かく検証しています。「ここに割く金と時間を趣味にかけられたらなぁ」と考えています。せめて飲みの場は楽しく、この会社では仕事が終わった後に気持ちよく食事ができる、と思わせてあげるのが上司の仕事でもあります。もっとも今では、こういった会社の飲み会は働き方改革や、昨今のコロナの影響下に置いて減っていると思います。もし飲み会の場があった場合に備えて、心がけておきましょう。
ワード・エクセル・パワーポイントと、会社ではパソコン作業は必須です。必須なだけに、誰でも「マイルール」のようなものを持っています。特に製造業においては細かい部分もしっかりと慎重に確認する人が多い傾向にあり、良くも悪くもこだわりを持った人が多いのが特徴です。文字はMSPゴシックでないと気持ちが悪い、エクセルの文字数字は右揃えにしないと気が済まない、パワポの資料はある程度動きが出るくらいはこだわりたい…などなど。確かに綺麗に整えられ、無駄がそぎ落とされた資料には内容以上の説得力を感じることもあります。
しかし、日常的に作成しなければならない資料にそこまでパワーを割けるかと言ったら、現実問題そんなことはありません。中には見積もりのように頻繁に作る機会が発生し、ほとんどフォーマットも固まっている資料に対して重箱の隅をつつくような指摘をする上司がいます。文字のフォント、文章の「てにをは」の追求がそれに当たります。これは「部下の資料をよく見ている」というアピールとしては有効かもしれませんが、あまりに細かすぎたり修正を要求しすぎたりすると、部下としては息苦しさを感じてしまいます。この時に部下が感じるのは、「資料を訂正しなければならない大変さ」よりも、むしろ「上司は暇なんだろうか?」という素朴な疑問です。部下側はあくせく働いて報連相や様々な資料作りをしているというのに、上司はそれをチェックして突き返すだけという印象を与えていませんか?実際はそうでなかったとしても、部下はそんな風に考えているかもしれません。資料のチェックはほどほどにし、フィードバックする回数を3回以内にするなど、限度を設けましょう。
理想の上司になるために気を付けるべき事5選 〜製造職編〜を解説してきました。これ自分もやってしまっているなとドキッとした方、いるいると思われた方もいるかも知れません。一般的に人は、「自分の時は厳しく育てられたから部下にも厳しく接しよう」と考えがちです。それ自体は悪いことではないでしょう。ただ、その考えを過信しすぎてしまうと、悪い伝統まで下に引き継いでしまうことになりがちです。昔上司に言われてイヤだったり傷ついたりした言葉を、同じように部下に投げかけていませんか?イヤだなと思った上司の言動を、そのまま部下を苦しめる道具にしていませんか?時代の流れは会社が変化するよりもずっと早く移り変わっています。インターネットの時代、世代間の感覚のずれは想像以上に大きくなっています。理不尽な上司にならないためには、なるべく正確に部下の実態を知る必要があります。これは簡単なことではないでしょう。ですが目線を合わせたり、共感する力というのはこれからの時代さらに重要になっていくでしょう。この記事をきっかけに、考えるきっかけになれば幸いです。