聞き手の人数や場所にかかわらず、プレゼンテーションをするとなれば多少なりとも緊張するものです。用意したプレゼンテーションの内容を受け入れてもらえるのか、時間どおりに終わらせられるのか、など様々な不安を感じることもあるでしょう。特に聞き手が社外の人だったり、よく知らない人だったりすると、プレゼンテーションの数日前から落ち着かないプレゼンターを見かけることも少なくありません。しかし、このように緊張や不安を感じるのは当然です。プレゼンターは話す時間が多い上、内容に関する同意や承認を得るなど何らかのミッションを抱えているため、役割や責任を誠実に果たそうとするほどプレッシャーが大きくなりやすいのです。
では、緊張や不安とうまく付き合いながら、プレゼンテーションを成功させるにはどうすれば良いのでしょうか。プレゼンテーションについて得意な部分、苦手な部分は人それぞれですが、成功するかどうかはプレゼンターの準備と場数次第といえます。想定外の質問を受けたときの切り抜け方や突発的な時間調整への対応など、場数を踏むことでしか得られないことは確かにあります。だからといって、経験の浅いプレゼンターが気を落とすことはありません。場数だけでプレゼンテーションの成否は決まりませんし、念入りな準備を行うことで若手が素晴らしいプレゼンテーションをすることもあるのです。「準備で勝負が決まる」といわれることもあるほど、プレゼンテーションの成功に念入りな準備は欠かせません。
準備というと、プレゼンテーションに使用する投影資料や配布資料を思い浮かべるかもしれません。もちろん資料の内容、すなわち話す内容も大切ですが、プレゼンテーション本番での話し方も準備が必要です。どれだけ話す内容が考えられていても、聞き手に伝わらなければ意味がないからです。それでは、プレゼンテーションを成功させるために押さえるべき基本やコツを見ていきましょう。
プレゼンテーションの一般的な流れは、イントロダクション(挨拶、趣旨の説明など)⇒ボディ(資料を用いた内容説明)⇒質疑応答⇒クロージング(お礼、次のステップの説明など)です。テーマが異なっても、この流れはあまり変わらないことがほとんどです。
イントロダクションから、聞き手の注目はプレゼンターに集まります。つまり、核心部分であるボディ(内容説明)に進む前から勝負は始まっているのです。聞き手が社内の先輩や同僚であれば「プレゼンターは緊張しているようだ」「気合が入っているな」と期待して見守っているかもしれません。一方、聞き手が社外の取引先であれば「この担当者は仕事ができそうだ」「オドオドして見えるが大丈夫なのか」と観察しているでしょう。資料の内容説明に入る前に、何らかの印象を与えているのです。けれども、プレゼンテーション中は緊張もあり、多くのことには注意を払えないでしょう。
プレゼンテーション本番で最低限意識すべきことは、話すスピードと聞き手の反応です。一方的に話す時間が長いゆえ、この2つはプレゼンターが配慮すべきです。話すスピードが速すぎれば聞き手は置いてきぼりになり、途中で脱落する可能性があります。また、聞き手の反応に応じて、説明を繰り返したり質問を挟んだりしながら進めることで、聞き手にとって満足度の高いプレゼンテーションになりやすいのです。
プレゼンテーションの場数が少ないなどの不安があれば、リハーサルを行うことも効果的です。ストップウォッチを使って一人で練習するだけでも、詳しく説明するには自分の理解が不十分なところや、流れが不自然なところに気付くことができます。何度か練習することで、資料をただ読み上げるのではなく、より伝わりやすい表現を見つけることもできるでしょう。同僚や先輩がリハーサルに付き合ってくれるのであれば、聞き手の立場で説明不足だと感じられる点がないか、話すスピードは適切かという点をチェックしてもらうと、不安要素を減らすことができます。
これらのポイントも含め、プレゼンテーションの話し方について、実践的な5つのコツをご紹介します。
プレゼンテーションのイントロダクションでは自己紹介や世間話など、比較的カジュアルな雰囲気で話をすることもあるでしょう。プレゼンターと聞き手の関係性にもよりますが、できる限りプレゼンター自身にとって優しい雰囲気をつくることを目指しましょう。長々と世間話をする必要はありませんが、プレゼンターと聞き手が笑顔を見せ合ったあとでプレゼンテーションに移行するのと、真剣な表情のまま事務的にプレゼンテーションが始まるのでは、互いの印象は少なからず異なります。聞き手に話を聞いてもらいやすくし、プレゼンターが話しやすくするために、アイスブレイクを取り入れることも考えてみましょう。
プレゼンテーション直前は、目の前のことでいっぱいいっぱいになり、気の利いたことを言えなくなることも珍しくありません。そのような事態に備えて、アイスブレイクのネタを用意しておくと良いでしょう。アイスブレイクに決まった形式はなく、プレゼンターが最近新しく知ったことや面白かったことを話して、聞き手にも関連する質問をし、感想を述べ合う方法はよく見られます。より簡単なものであれば、自己紹介の際に「実は私、○○なのですよ」など、ちょっとしたエピソードを加えるだけでも話が広がりやすくなります。プレゼンテーションの内容につながるクイズを出したり、簡単なゲームをしたりして、続いて説明する内容に興味を持ってもらう方法もあります。アイスブレイクは出席者同士のコミュニケーションのきっかけとなり、緊張が多少ほぐれるため、少しの時間でも効果的です。
プレゼンテーションに不慣れな人ほど、緊張して早口になりがちです。慣れている人でも、ビジネス上重要なコンペティションや大人数の場では、焦って早口になってしまうことがあります。このような場合、プレゼンター自身は無自覚であることが多く、聞き手の理解が追いついていないことにも気付きません。プレゼンターは無意識に話すスピードが速くなる可能性を考慮し、普段よりもゆっくり話すことを心がけましょう。
資料のアジェンダに時間配分を記載することもありますが、そうでないとしても、アジェンダごとにどのくらいの時間をかけて話すか決めておきましょう。パワーポイントであれば1スライドあたり2~3分など、余裕を持たせて計算します。制限時間内におさまらないようであれば、情報量を減らすか、必須ではないスライドを抜いて補足資料にするなどして対応しましょう。事前に余裕を持たせてスケジューリングしておくことが、早口のプレゼンテーションにならないためのコツです。
聞き手の表情や頷きを観察すれば、理解度や集中力を推し量ることができます。複数人の聞き手が首を傾げて考え込んでいる状況や、キーパーソンが納得していない様子であれば、プレゼンテーションの途中でも対応するべきです。放っておくと、聞き手の身が入らないまま続きの内容を説明することになり、全体的に聞き手の理解度が低くなる可能性があります。
プレゼンターは聞き手の反応が良くないことに気付いたら、もう一度要点を繰り返したり、「ここまでの内容で分かりにくかったところがあれば、遠慮なく仰ってください」と質問を促したりしましょう。聞き手が気にしている点が分かれば、そのあとの説明内容についても、時間をかけて丁寧に説明すべき箇所に気付けるようになります。プレゼンテーション中に聞き手を観察することが難しければ、章やスライドごとなど確認ポイントを決めて、定期的に顔を上げて聞き手の反応を見るようにしましょう。
プレゼンテーション中の聞き手は、体を動かすことも少ないですし、時間が経つにつれて集中力が落ちてくることも少なくありません。プレゼンターが聞き手の集中力を維持するためにできる工夫として、アイコンタクト、ジェスチャー、質問などがあります。
時折アイコンタクトをすることで、聞き手の意識を引き付けるだけではなく、プレゼンターを堂々と見せる効果があります。資料をずっと見ているプレゼンターよりも、聞き手の目を見てゆっくり話すプレゼンターの方が、内容に自信があるように見えるのです。
また、ジェスチャーを使うと熱意が伝わりやすくなるというメリットもありますが、プレゼンテーションが単調ではなくなり、聞き手を飽きさせない効果もあります。そして、どうしても受け身になってしまう聞き手を巻き込む方法としては、質問が最も効果的でしょう。聞き手が質問の答えを考える過程で再び集中力が高まりますし、緊張感も生まれます。
プレゼンターの癖が気になってしまい、途中からプレゼンテーションの内容に集中できなかった、という経験はありませんか。例えば、貧乏ゆすりやボールペンをカチカチ鳴らす癖、口癖など。聞き手の気を散らす原因になりうる癖がある場合、そればかり注目されて肝心の内容が伝わらないという、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。
「えー」「要するに」「まぁ」「あのー」「なんか」「○○です、うん」「○○です、はい」などは、無意識に繰り返していることが多い語尾や口癖の代表例です。ビジネスの場に限ったことではありませんが、一度気になってしまうと、聞き手は話が終わるまで気にし続けてしまう傾向があります。このような癖がないか、一度プレゼンテーションを録音・録画してみると良いかもしれません。
プレゼンテーションのボディ部分の説明を終えたら、質疑応答に移行します。別の人がファシリテーターを担っている場合でも、「何でもお聞きください。ぜひ皆様のご意見を伺いたいです」と、回答者として質問を歓迎する姿勢を見せましょう。企業文化や出席者同士の関係によっては、何度か促して、やっと質問が出るという場もあります。質問者とプレゼンターが会話のキャッチボールをすることで、出席者全体の理解が深まり、次の質問が出るのはよくあることです。これらのやり取りを通して、プレゼンテーションのテーマに関する互いの考えや価値観を共有することは、今後の関係構築においても有効です。
プレゼンテーションのクロージングでは、時間をもらったことや話を聞いてくれたことに対する感謝と敬意を示しましょう。さらに、プレゼンテーション後の質問や連絡も受け入れる姿勢を見せておくことで、継続的な関係やビジネスチャンスにつながる可能性があります。「今日のプレゼンテーションは、ためになる内容だった」「あのプレゼンターの話をまた聞いてみたい」と思ってもらえるよう、最後まで手を抜かずにやり切りましょう。
これまでご紹介したように、プレゼンテーションの質には話し方が大きく影響しています。プレゼンテーションの話し方が上手い人は、念入りな準備をして、場数を重ねていることがご理解いただけたのではないでしょうか。上達するためには、ご紹介した内容を自分で実践することはもちろん、上手い人を見つけて手本にしたり、誰かに見てもらいアドバイスをもらったりすることが有効です。
普段の業務でプレゼンテーションを何度も経験し、改善していくのが一般的ですが、早く上達したいのであればスクールへの通学もおすすめです。人前でのプレゼンテーションを繰り返し練習することで場数をこなせますし、毎回客観的なアドバイスをもらえます。プレゼンテーションにおける自分の強みや改善点が明確になり、効率的にプレゼンテーションの準備ができるようになるはずです。